世界でがんばっている場所に行く
ヨーロッパにあるオランダは、面積が日本の九州と同じくらいの小さな国だよ。国の名前は「低い土地」という意味を表していて、その名の通り、国土の4分の1が海よりも低い土地なんだって。
水の上にある家
オランダの首都アムステルダムは運河があみの目のように走り、歴史ある美しい建物が多く、水の都として世界中から観光客が集まる人気の観光都市です。でも、低い土地が多いので、昔から洪水や高波などの水害になやまされてきました。
世界的なベストセラー本『アンネの日記』の作者であるアンネ・フランクは、アムステルダムの住宅の、かくれ家で暮らしていたよ。小学生のみんなは、『アンネの日記』を読んだことがあるかな。
海の水の高さが上がることを「海面上昇」といいますが、今は地球温暖化の影響で海面上昇が少しずつ起き始めています。たくさんの科学者たちが集めたデータで予測したところ、21世紀の終わりごろ、つまり2100年ごろには最大で今より1m以上*1も海面が高くなるのではないかと心配されているのです。
これだと、あふれた川や海の水を防ぐ高い堤防を作っても、高波の時は洪水が起きてしまいます。そこで、オランダの政府は海面が上がってきても、それに合わせて浮いてくれる水上住宅に注目するようになりました。
オランダには昔から水上住宅があり、今でも2万人以上が住んでいますが、人気があって順番待ちをしているほどです。これらはボートの形をしている家「ハウスボート」ですが、もともと工場地帯があったアムステルダムの海に近いエリアには、2019年、ふつうの家のような形の水上住宅街ができました。
発電した電気をとなり近所で貸し借りできる
この水上住宅街は「スホーンシップ」と呼ばれ、43世帯・100人が暮らしています。緑もあってペットもいて、一見すると、本当にふつうの住宅のようです。でもたしかに水の上にあって、家の横にボートが浮かんでいる家もたくさんあります。よく見ると、それぞれの家は流されないように、くいで留められています。
船で運ばれる水上住宅
スホーンシップの家はほかの場所で建てられて、船にひかれて運ばれます。
このスホーンシップは単に水上に建てられているだけではなく、建物を工夫してエネルギーや水を節約したり、住民同士でいろいろなものを共同で使うしくみを取り入れたりしています。
たとえば、屋上やかべをよく見ると、どの家にも太陽光発電のソーラーパネルがあるのに気づきます。それぞれの家では自家発電した電気を使っていますが、旅行に出かけて電気をあまり使わない場合などは、その電気をほかの家に分けてあげるしくみがあります。
この住宅街のどの家のどの設備が、どれくらい電気を使っているか、充電池にどれくらい充電されているか、住民はインターネット上のウェブサイトから見ることができます。天気が悪くて太陽光発電があまりはたらかない時などは電力会社から電気を買いますが、住宅街全体でどれくらい電気を購入しているかもわかります。
電気を分けてあげた人は、その分をその地域だけで使えるお金(地域通貨と言います)でもらえて、近くのカフェでコーヒーを飲んだりご飯を食べたりもできます。
ウェブサイトは、英語とオランダ語だけど、イラストなどもあって、とっても楽しく作ってあるので、見てみてね!
自分の家で電気があまった時にとなりの家に貸してあげたり、足りない時は借りたり、それでコーヒーを飲んだりなんて、とっても進んでいてすてきなしくみだね。
アムステルダムの冬はとても長くて寒いですが、太陽や家からの排気熱などを上手に使ってなるべくエネルギーを使わないようにして部屋をあたためます。太陽の熱を集めて使っている家もあるし、あたたまった運河の水から得られる熱を上手に使うなど、あちこちに自然の熱を利用する工夫があふれています。だから、ここではガスを引かなくても快適に過ごせるのです。また、電気自動車や電動バイクなども住民みんなでシェアして使っています。
住人が考えた環境をよくする技術を世界中に公開
この住宅街は、ふつうの市民が10年かけていろいろなアイデアを出し合って、専門家の知識も取り入れながら作られてきました。今でも、街の緑や水上菜園、電気自動車、水路の水質、お祭りやツアーなど、地域の環境づくりやみんなでいっしょに行うことについて、グループに分かれて話し合いを続けています。
ここに住んでいるマルテンさんは「ここは、都市の中の“村”のようなところで、いろいろな人と出会えて、いっしょに体験ができるすてきな場所なんだ」と話してくれました。
そして、海面上昇でなやむ世界中の人たちが、街の作り方について質問を送ってきたり、見学におとずれたりするので、街で工夫している技術についてはインターネットで公開しています。
マルテンさんは、「ぼくたちのアイデアや計画は公開されているので、だれでもそれを利用して、新しい形のスホーンシップを作れるよ」と言っています。
今も問題があればみんなで話し合い、水上に畑や庭を作ったり、ごみを肥料にしたりと、未来をよくする方法を住民が次々と考え続けているからこそ、水上住宅はつねに進歩し続けているのです。
- *1 国連「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」第6次報告書